「銀河系に36個の地球外文明が存在」と予想した論文の中身を解説 ~ドレイクの式と比べて結局何が変わったのか?
2020年6月10日に天文学の専門誌で発表された論文が世界的に大きな話題となりました。この動画では、今回発表された論文の結論よりも、どういった考え方で地球外文明の数を予想していったのか、これまでの研究とはどう違うのか、この論文の方法論を解説します。 【目次】 0:00 世界を駆け巡ったニュース 0:36 ドレイクの式 1:22 方程式の問題点 1:52 重要な仮定 2:18 観測不可能な変数を消す 2:37 「仮定」のもとでの式変形 3:52 計算結果 4:31 さらなる仮定 5:08 あとがき 【紹介論文】 T. Westby & C.J. Conselice (2020) The Astrobiological Copernican Weak and Strong Limits for Intelligent Life. The Astrophysical Journal, 896:58 (18pp). https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab8225 【画像素材】 SpaceEngine, Newsweek 【字幕全文】 「銀河系には36個の地球外文明が存在する可能性がある」 今年の6月10日に天文学の専門誌で発表された論文が 世界的に大きな話題となりました。 現時点で、私たちの地球以外に 生命は発見されていないので、 こういった予想をするためには、当然様々な仮定が入ってきます。 この動画では、今回発表された論文の結論よりも、 どういった考え方で地球外文明の数を予想していったのか、 これまでの研究とはどう違うのか、 この論文の方法論を皆さんと一緒に詳しく見ていきたいと思います。 まずスタートとなるのは1961年に発表されたドレイクの式です。 我々の銀河系に存在し 人類と交信可能な地球外文明の数をN個とすると、 銀河系の中で1年間に誕生する恒星の数、 一つの恒星が惑星系を持つ確率、 一つの惑星系の中で、ハビタブルな惑星の数、 ハビタブル惑星の中で、生命が発生する確率、 発生した生命が、知的生命体まで進化する確率、 知的生命体が、電波など地球と交信できる技術を持つ確率、 その地球外文明が存続する期間 を掛け算することで、最終的なNが求まります。 これらのパラメーターに妥当と考えられる数値を代入することで、 Nが10個という結論が得られました。 これが1961年までの理解です。 しかしこの式には一つ大きな問題があります。 「1年間に誕生する恒星の数」や 「恒星が惑星を持つ確率」などは観測によって求めることができます。 しかし「発生した生命が、知的生命体まで進化する確率」や 「知的生命体が、地球と交信できる技術を持つ確率」を 実際の観測から制約するのはほぼ不可能です。 そのため、これらのパラメーターを使わずに、 実際に観測によって求まるパラメーターだけで 地球外文明の数を推測する必要がありました。 今回紹介する論文では、一つ大きな仮定を置くことで、 この問題を「迂回」しています。 その仮定とは、「ハビタブルな惑星が50億年以上、 安定に存在することができたら、その惑星では 100%の確率で、生命が発生し、 100%の確率で、知的生命体まで進化し、 100%の確率で、地球と交信可能な技術も獲得する」 というものです。 これはものすごく大きな仮定です。 先ほどのドレイクの式に当てはめると、 ハビタブルな惑星が50億年以上存在するという条件のもとで、 fl, fi, fcを全て1とする、ということに相当します。 これによって、未知のパラメータを消すことができ、 文明の持続時間さえ除けば、 あとは観測可能な量になるというわけです。 今の考え方を、この論文では以下のような式に落とし込んでいます。 人類と交信可能な地球外文明の数をN個とすると、 銀河系の全ての恒星の数、 恒星の年齢が50億年以上である割合 さらに恒星がハビタブルな惑星を持つ割合、を掛け算した上で、 文明の持続時間に対して、 生命がハビタブルな惑星において進化するのに使える時間の割合、 を最終的にかけ合わせて算出することができます。 最初の3つのパラメーターはいいとして、 最後の割合は何を意図しているのでしょうか。 地球外文明が存在していたとしても、それが太古の昔だったり、 人類が絶滅した後の、はるか未来であったりすると、 我々とは交信できないので、意味がありません。 具体的に考えると例えば、 ハビタブルな惑星の平均的な年齢が60億年だった場合 最初の50億年間は文明が存在しない、という仮定を置いていたので 残りの10億年だけが、文明が存在可能な期間となります。 よって、例えば文明の持続時間が200年だとすると、 この両者の割合が、時間という観点から見た、 地球外文明との接触確率になります。 ここまでくれば後は、 観測量や理論的な推定値を粛々と代入するだけです。 実はもう気づいた方もいるかもしれませんが、 これだけではかなりの過剰見積もりになります。 この仮定のまま、観測値や推定値を代入すると、 銀河系には平均で400個から900個近い地球外文明が、 存在するという結果が得られます。 もしこれらの文明が銀河系全体で均等に分布した場合、 3000から4000光年おきに存在することになります。 じゃあなぜこんな大きな数字になったかというと、 最初に置いた仮定では、惑星の年齢が50億年以降であったら、 いつでも文明が発生してよいことになっています。 しかし実は銀河系内の恒星の97%近くが、 50億年以上の年齢を持っているので、 あまり強い制約にはなっていませんでした。 そこで著者らはもう一段階厳しい条件を仮定することにしました。 「地球外文明は惑星が誕生してから 45億年から55億年の間の期間のみに存在する。 それより前や後の時代には存在できない」 という条件です。 この条件で考えると今度は、 銀河系には平均で36個から69個の地球外文明が、 存在するという結果が得られました。 ここで、地球外文明の平均的な持続時間は100年としています。 これは、人類が無線通信を発明してからの時間に概ね対応しており 論文の著者らは、「最も控えめな見積もり」としています。 いかがでしょうか。 皆さん、パラメーターの取り方にはそれぞれご意見があるでしょう。 しかし繰り返しになりますが、重要なのは数字ではありません。 予め仮定を置くことで、ドレイクの式から、 観測で制約できない未知変数を消し、 観測可能な変数だけで式を記述する、という考え方の転換が この論文の本質です。 この論文には他にも、星の金属量や銀河の化学進化など、 紹介しきれなかった点もいろいろと議論されていますので、 質問ありましたらコメントいただけると幸いです。 それでは今回もご視聴ありがとうございました。 チャンネル登録して頂けると、泣いて喜びます。 よろしくお願いします。 #惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道
2020年6月10日に天文学の専門誌で発表された論文が世界的に大きな話題となりました。この動画では、今回発表された論文の結論よりも、どういった考え方で地球外文明の数を予想していったのか、これまでの研究とはどう違うのか、この論文の方法論を解説します。 【目次】 0:00 世界を駆け巡ったニュース 0:36 ドレイクの式 1:22 方程式の問題点 1:52 重要な仮定 2:18 観測不可能な変数を消す 2:37 「仮定」のもとでの式変形 3:52 計算結果 4:31 さらなる仮定 5:08 あとがき 【紹介論文】 T. Westby & C.J. Conselice (2020) The Astrobiological Copernican Weak and Strong Limits for Intelligent Life. The Astrophysical Journal, 896:58 (18pp). https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab8225 【画像素材】 SpaceEngine, Newsweek 【字幕全文】 「銀河系には36個の地球外文明が存在する可能性がある」 今年の6月10日に天文学の専門誌で発表された論文が 世界的に大きな話題となりました。 現時点で、私たちの地球以外に 生命は発見されていないので、 こういった予想をするためには、当然様々な仮定が入ってきます。 この動画では、今回発表された論文の結論よりも、 どういった考え方で地球外文明の数を予想していったのか、 これまでの研究とはどう違うのか、 この論文の方法論を皆さんと一緒に詳しく見ていきたいと思います。 まずスタートとなるのは1961年に発表されたドレイクの式です。 我々の銀河系に存在し 人類と交信可能な地球外文明の数をN個とすると、 銀河系の中で1年間に誕生する恒星の数、 一つの恒星が惑星系を持つ確率、 一つの惑星系の中で、ハビタブルな惑星の数、 ハビタブル惑星の中で、生命が発生する確率、 発生した生命が、知的生命体まで進化する確率、 知的生命体が、電波など地球と交信できる技術を持つ確率、 その地球外文明が存続する期間 を掛け算することで、最終的なNが求まります。 これらのパラメーターに妥当と考えられる数値を代入することで、 Nが10個という結論が得られました。 これが1961年までの理解です。 しかしこの式には一つ大きな問題があります。 「1年間に誕生する恒星の数」や 「恒星が惑星を持つ確率」などは観測によって求めることができます。 しかし「発生した生命が、知的生命体まで進化する確率」や 「知的生命体が、地球と交信できる技術を持つ確率」を 実際の観測から制約するのはほぼ不可能です。 そのため、これらのパラメーターを使わずに、 実際に観測によって求まるパラメーターだけで 地球外文明の数を推測する必要がありました。 今回紹介する論文では、一つ大きな仮定を置くことで、 この問題を「迂回」しています。 その仮定とは、「ハビタブルな惑星が50億年以上、 安定に存在することができたら、その惑星では 100%の確率で、生命が発生し、 100%の確率で、知的生命体まで進化し、 100%の確率で、地球と交信可能な技術も獲得する」 というものです。 これはものすごく大きな仮定です。 先ほどのドレイクの式に当てはめると、 ハビタブルな惑星が50億年以上存在するという条件のもとで、 fl, fi, fcを全て1とする、ということに相当します。 これによって、未知のパラメータを消すことができ、 文明の持続時間さえ除けば、 あとは観測可能な量になるというわけです。 今の考え方を、この論文では以下のような式に落とし込んでいます。 人類と交信可能な地球外文明の数をN個とすると、 銀河系の全ての恒星の数、 恒星の年齢が50億年以上である割合 さらに恒星がハビタブルな惑星を持つ割合、を掛け算した上で、 文明の持続時間に対して、 生命がハビタブルな惑星において進化するのに使える時間の割合、 を最終的にかけ合わせて算出することができます。 最初の3つのパラメーターはいいとして、 最後の割合は何を意図しているのでしょうか。 地球外文明が存在していたとしても、それが太古の昔だったり、 人類が絶滅した後の、はるか未来であったりすると、 我々とは交信できないので、意味がありません。 具体的に考えると例えば、 ハビタブルな惑星の平均的な年齢が60億年だった場合 最初の50億年間は文明が存在しない、という仮定を置いていたので 残りの10億年だけが、文明が存在可能な期間となります。 よって、例えば文明の持続時間が200年だとすると、 この両者の割合が、時間という観点から見た、 地球外文明との接触確率になります。 ここまでくれば後は、 観測量や理論的な推定値を粛々と代入するだけです。 実はもう気づいた方もいるかもしれませんが、 これだけではかなりの過剰見積もりになります。 この仮定のまま、観測値や推定値を代入すると、 銀河系には平均で400個から900個近い地球外文明が、 存在するという結果が得られます。 もしこれらの文明が銀河系全体で均等に分布した場合、 3000から4000光年おきに存在することになります。 じゃあなぜこんな大きな数字になったかというと、 最初に置いた仮定では、惑星の年齢が50億年以降であったら、 いつでも文明が発生してよいことになっています。 しかし実は銀河系内の恒星の97%近くが、 50億年以上の年齢を持っているので、 あまり強い制約にはなっていませんでした。 そこで著者らはもう一段階厳しい条件を仮定することにしました。 「地球外文明は惑星が誕生してから 45億年から55億年の間の期間のみに存在する。 それより前や後の時代には存在できない」 という条件です。 この条件で考えると今度は、 銀河系には平均で36個から69個の地球外文明が、 存在するという結果が得られました。 ここで、地球外文明の平均的な持続時間は100年としています。 これは、人類が無線通信を発明してからの時間に概ね対応しており 論文の著者らは、「最も控えめな見積もり」としています。 いかがでしょうか。 皆さん、パラメーターの取り方にはそれぞれご意見があるでしょう。 しかし繰り返しになりますが、重要なのは数字ではありません。 予め仮定を置くことで、ドレイクの式から、 観測で制約できない未知変数を消し、 観測可能な変数だけで式を記述する、という考え方の転換が この論文の本質です。 この論文には他にも、星の金属量や銀河の化学進化など、 紹介しきれなかった点もいろいろと議論されていますので、 質問ありましたらコメントいただけると幸いです。 それでは今回もご視聴ありがとうございました。 チャンネル登録して頂けると、泣いて喜びます。 よろしくお願いします。 #惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道